残業が多いことは、自分でも分かっていました。それが月に何時間なのかは、聞かれても答えられませんでした。タイムカードは定時で押して、そのあと席に戻る。それが当たり前になっていたので、数える理由
この記事の要点
- 会社の勤怠記録と実感がずれていても、自分の手元で始業・終業の時刻を残すことはできます
- 令和7年度に仕事が原因の精神障害として労災の支給が決まったのは1,082件で、7年連続の増加とされています
- 労働時間は原則として、タイムカードなどの客観的な記録で把握することが求められています
- 残業の長さを自分で評価せず、記録を持って総合労働相談コーナーなどに相談できます

がなかったのです。
この記事に出てくる人物と会社は実在しません。報道や統計、公表されている裁判例に共通して見られる経過をもとに、特定の個人が分からない形で再構成した架空の事例です。
「今日も終電」が、半年続いた
始まりは、同じ部署の二人が続けて辞めた春でした。引き継いだ仕事はそのまま自分の担当になり、人が補充される話は、何度聞いても「調整中」で止まったままでした。
最初のうちは、片づければ終わると思っていました。金曜に残業して土曜に持ち越し、日曜の夜に翌週の準備をする。そのサイクルが二か月、三か月と続いても、忙しい時期はどこの会社にもある、と自分に言い聞かせていました。
「一時的なものだから」と言われて、その一時的が半年続きました。
勤怠システムには、毎日ほぼ同じ数字を入れていました。上限を超えると申請が通らないので、超えない範囲に収めるのが暗黙の了解になっていたからです。実際に会社を出る時刻は、そこには残りませんでした。
倒れた朝に気づいたこと
ある月曜の朝、いつもの駅のホームで動悸が止まらなくなり、その場に座り込みました。人に助けられて改札を出て、そのまま近くの内科を受診しました。
医師から「ここ一か月の残業は、だいたい何時間くらいですか」と聞かれました。答えられませんでした。手元にあるのは、実態と合っていない勤怠システムの数字だけでした。
そのとき初めて、自分が働いた時間を、自分では持っていないのだと気づきました。
何が起きていたのか
厚生労働省が2026年7月に公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」によると、仕事が原因の精神障害として労災の支給が決まったのは1,082件で、7年連続で増えたとされています。出来事の内訳では「上司等からのパワーハラスメント」が222件で最も多く、次いで「顧客や取引先等からの迷惑行為」と「セクシュアルハラスメント」が各127件と公表されています。
長時間労働は、心理的な負荷を判断するときの要素のひとつとして扱われています。ただし、時間数だけで結論が決まるわけではなく、業務の内容や出来事とあわせて個別に判断されるとされています。ここで大切なのは、自分で「これは労災に当たる」「当たらない」と決めてしまわないことです。判断は、その役割を持つ窓口や専門家に委ねられます。
労働時間の把握については、厚生労働省のガイドラインで、タイムカードやパソコンの使用時間といった客観的な記録によることが原則とされています。やむを得ず自己申告による方法をとる場合も、申告された時間が実態と合っているかを確認し、必要に応じて補正することが求められている、とされています。
その日から残せる4つのこと
倒れた翌週から、スマートフォンのメモに書きはじめました。書いたのは次の4つだけです。
- 会社に着いた時刻と、会社を出た時刻(分からない日は「終電で帰った」でも構いません)
- その日にしていたこと(一行。「A社の見積、B社の障害対応」程度)
- 勤怠システムに入力した時刻との差(「システムは19時、実際は23時40分」)
- その日の体調(眠れた時間、食欲、通院の有無)
正確な分単位でなくてかまいません。あとから交通系ICカードの利用履歴や、自分が送ったメール・チャットの送信時刻と突き合わせられることがあります。元のデータは編集せず、そのまま残しておくほうが、後から確かめやすくなります。
きろくねでは、記録した時刻が自動で添えられ、出来事を日時順に見返せます。書いた記録を誰かに見せるかどうかは、あとから選べます。
相談できる場所
労働時間や残業代、健康への影響について相談したいときは、全国の労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーを無料で利用できます。予約なしで相談できる窓口が多く、どこに持ち込めばよいか分からない段階でも構いません。
ハラスメントが絡んでいる場合は、厚生労働省の「あかるい職場応援団」に相談先の案内がまとまっています。費用の心配があるときは、法テラスで無料法律相談や弁護士費用の立替を利用できる場合があります。
体調が続かないと感じるときは、記録より先に、受診と休むことを優先してください。
数字がそろわなくても、始められる
半年分をさかのぼって完璧に再現する必要はありません。思い出せる範囲を書き、あいまいな部分は「正確な時刻は不明」と分けて書いておくほうが、後から見返したときに混乱しにくくなります。
記録は、誰かに提出するための書類である前に、自分が状況を見失わないためのものです。今日の帰り道に一行だけ、というところから始められます。
よくある質問
- 会社の勤怠記録と実際の勤務時間が違います。自分のメモに意味はありますか?
意味がなくなるわけではありません。労働時間は原則として客観的な記録で把握することが求められており、自己申告による記録が実態と合っているかを確認することも求められているとされています。自分のメモは、交通系ICカードの履歴やメールの送信時刻など、ほかの手がかりと突き合わせる出発点になります。判断は相談先や専門家に委ねてください。
- 何時間を超えたら相談してよいのでしょうか?
目安の時間を自分で超えるまで待つ必要はありません。心理的な負荷は時間数だけで決まるものではなく、業務の内容や出来事とあわせて個別に判断されるとされています。眠れない、食べられない、出勤が難しいと感じる段階で、受診や相談を先に検討できます。
- 過去の分をさかのぼって記録できますか?
思い出せる範囲で書けます。あいまいな部分は推測で埋めず、「正確な時刻は不明」と区別して書いておくほうが後から見返しやすくなります。手元のメールやチャットの送信時刻、交通系ICカードの履歴などが手がかりになる場合があります。
- 会社に知られずに相談できますか?
総合労働相談コーナーでは、相談内容の取り扱いについて、その場で確認できます。会社に伝わることが不安な場合は、最初にその不安を伝えて構いません。どこまで進めるかは相談しながら決められます。
出典・参考
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。