「お前じゃ話にならない、上を出せ」から始まったその電話は、1時間半続きました。途中で何度か保留にして、そのたびに息を整えて、また受話器を取りました。終わったあと、自分が何を謝ったのかは、もう思

この記事の要点

  • 2026年10月1日から、カスタマーハラスメントへの対応が事業主の義務になるとされています
  • 令和7年度に「顧客や取引先等からの迷惑行為」で労災の支給が決まったのは127件と公表されています
  • 対応した日時・所要時間・言われたことを、その日のうちに短く残せます
  • 業務情報を含む記録は、社外へ持ち出す前に取り扱いを確かめます
目次(7項目)
  1. 名前を覚えられてから、変わった
  2. 制服を脱いでも、声が消えなかった
  3. 2026年10月から、会社の対応が義務になる
  4. その日のうちに残せる4つのこと
  5. 持ち出す前に、一度立ち止まる
  6. 相談できる場所
  7. よくある質問
カスタマーハラスメントを記録し、相談の準備をするイメージ
出来事を短く整理し、相談で伝える順番をつくるイメージです。

い出せませんでした。

この記事に出てくる人物と会社は実在しません。報道や統計に共通して見られる経過をもとに、特定の個人が分からない形で再構成した架空の事例です。

名前を覚えられてから、変わった

その人が最初にかけてきたのは、商品の入荷が遅れたという問い合わせでした。事情を説明し、こちらの不手際があった部分は謝りました。そこまでは、よくあるやりとりでした。

翌週から、指名で電話が来るようになりました。同じ話が繰り返され、そのたびに前回の対応の粗さが指摘されました。声は次第に大きくなり、内容は仕事の話から離れていきました。

「その言い方は何だ。客だぞ。名前、覚えたからな」

店長には、そのつど口頭で伝えていました。返ってきたのは「まあ、うまくかわして」でした。悪気があったわけではないと思います。ただ、その言葉のあと、私は誰にも言わなくなりました。

制服を脱いでも、声が消えなかった

三か月目には、シフト表を見るのが怖くなっていました。その人が来やすい曜日を数えるようになり、前日の夜は眠りが浅くなりました。

家に帰って制服を脱いでも、あの声だけが残っていました。家族に話そうとしても、うまく説明できませんでした。何を言われたかは覚えているのに、それがいつのことだったのか、何回目のことだったのかが、自分の中で全部つながってしまっていたからです。

そのときに困ったのは、つらさを証明できないことではなく、経過を自分でも説明できないことのほうでした。

2026年10月から、会社の対応が義務になる

2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントへの防止措置が事業主の義務となり、2026年10月1日に施行されるとされています。あわせて、就職活動中の学生など求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も義務化されます。2026年2月には、その防止指針が公布されています。

厚生労働省の説明では、カスタマーハラスメントは次の3つをすべて満たすものとされています。

  • 顧客、取引先、施設の利用者その他の関係者が行う言動であること
  • 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
  • それにより労働者の就業環境が害されること

数字の面でも、状況は動いています。令和7年度の「過労死等の労災補償状況」では、仕事が原因の精神障害として労災の支給が決まった1,082件のうち、「顧客や取引先等からの迷惑行為」を出来事とするものが127件と公表されました。これは「セクシュアルハラスメント」と並ぶ件数で、「上司等からのパワーハラスメント」の222件に次ぐ位置にあります。

ただし、自分が受けた言動がこれに当たるかどうかを、自分で判定する必要はありません。お客様相手だから我慢するもの、という前提のほうが変わりつつある、と受け取っておけば十分です。

その日のうちに残せる4つのこと

相手のいる仕事では、その場で書くことはできません。休憩に入ったとき、あるいは帰り道に、次の4つだけ残す方法があります。

  • 日時と所要時間(「1月18日 14:05〜15:35、電話」。おおよそで構いません)
  • 相手の特定につながる情報(顧客番号、伝票番号、レジ番号など。分かる範囲で)
  • 言われたこと(覚えている言葉をそのまま。思い出せない部分は「正確な文言は不明」と分ける)
  • 誰が見ていたか・誰に報告したか(同僚の名前、店長に伝えた時刻、その返答)

とくに「誰にいつ報告したか」は残しておくと後から効いてきます。会社に対応を求める段階になったとき、いつから知られていた話なのかが、経過として見えるようになるからです。

回数が積み上がる種類のできごとなので、1件ずつが短くて構いません。きろくねでは、記録した時刻が自動で添えられ、出来事を日時順に見返せます。やりとりのあとに短く残す方法もあわせて参考にしてください。

持ち出す前に、一度立ち止まる

録音や画面の保存を考えることもあると思います。顧客情報や業務上の情報が含まれるものは、社外の端末やサービスへ移す前に、勤務先の取り扱いルールを確かめてください。守るための記録が、別の問題になってしまうことがあります。

自分の手元に残すのは、日時・所要時間・言われたこと・自分の状態といった、自分に起きたことの側から始められます。

相談できる場所

まずは勤務先の相談窓口や上長に、口頭ではなく残る形で伝える方法があります。伝えた日時と相手、返答を記録しておくと、その後の経過を追いやすくなります。

社内では動かない、あるいは社内に言いにくいときは、全国の労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーを無料で利用できます。厚生労働省の「あかるい職場応援団」には、カスタマーハラスメントの定義や企業向けの対策資料がまとまっており、会社に対応を求めるときの手がかりになります。

眠れない、出勤が難しいと感じる状態が続くときは、記録より先に受診と休養を優先してください。きろくねは記録を助ける道具で、診断や認定、法的な判断は行いません。

よくある質問

カスタマーハラスメントは、いつから会社の義務になるのですか?

2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務となり、2026年10月1日に施行されるとされています。求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も同時に義務化されます。詳細は厚生労働省の案内をご確認ください。

どこからがカスハラで、どこまでが正当なクレームですか?

厚生労働省の説明では、顧客等による言動であること、社会通念上許容される範囲を超えていること、労働者の就業環境が害されることの3つをすべて満たすものとされています。個別の判断は勤務先や相談窓口に委ねられます。自分で線引きを決めなくても、日時と言われたことを残すことはできます。

電話の録音を自分のスマートフォンに残してもよいですか?

顧客情報や業務上の情報が含まれる場合があるため、社外の端末やサービスへ移す前に、勤務先の取り扱いルールを確かめてください。まずは日時・所要時間・言われたこと・自分の体調といった、自分に起きたことの側から残す方法があります。

店長に相談しても取り合ってもらえません。

いつ・誰に・何を伝え、どう返ってきたかを記録に残しておくと、その後に外部へ相談するときの経過として使えます。社内で動かないときは、総合労働相談コーナーで無料で相談できます。

出典・参考

「客だぞ」と1時間半どなられて|カスタマーハラスメントを記録に残すまでのイメージ

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。