職場でつらい言葉を受けても、「相談すると何が起きるのか分からない」「うまく説明できない」と足が止まることがあります。相談できていないことだけで、出来事の重さや本人の気持ちは測れません。
この記事の要点
- 調査の「何もしなかった」は、全労働者を分母にした割合ではありません。
- 相談をためらう理由と、起きた出来事を分けて書くと、最初に聞きたいことを整理できます。
- 記録を完成させてから相談する必要はありません。
目次(6項目)
この記事では、相談をためらう人を責めるためではなく、話し始める前の準備を考えるために調査を読みます。まず一場面と、まだ確認したいことを残すところから始められます。
「何もしなかった」36.9%は誰の回答?
厚生労働省の令和5年度実態調査の概要版24ページ・図表19では、過去3年間にパワハラを受けたと回答した1,546人のうち、受けた後の行動として「何もしなかった」を選んだ割合が36.9%でした。この設問は複数回答です。日本の労働者全体の36.9%という意味ではありません。
さらに同じページでは、何もしなかった人に理由を尋ねています。パワハラについて、何をしても解決にはつながらないと考えた人は65.6%でした。こちらの分母は「パワハラを受けた後、何もしなかった人」です。経験者全員に対する割合として扱ったり、36.9%と足したりはできません。出典:厚生労働省・訂正版概要版
元の一般サンプル調査は2024年1月、企業・団体に勤務する20〜64歳の8,000人を対象にしたインターネット調査です。経営者・役員・公務員は含みません。回答時に働いていない人も対象外なので、退職して仕事を離れた人の状況まで表す数字ではありません。
数字から「相談しても無駄」とは言えない
理由の回答は、その人が行動する前にどう考えたかを表します。実際に相談した全員の結果や、相談窓口ごとの解決率を示した調査結果ではありません。「解決しないと思った人が多い」ことを、そのまま「相談しても解決しない」という結論に置き換えないようにします。
自分の状況を考えるときも、起きたことと、これから起こりそうで心配なことを別々にすると、窓口に聞きたい質問が見つかります。例えば「所属を伝えたら上司にも連絡されるだろうか」は、上司への連絡が決まった事実ではなく、事前に確かめたい運用です。
話す前のメモは「出来事・ためらい・希望」の三つ
長い経緯書を書こうとせず、まず次の三つを一つずつ埋めてみてください。これは編集部の整理例であり、相談機関の指定書式ではありません。
- 出来事:いつごろ、どこで、誰から、何を言われた・されたか。
- ためらい:誰に伝わることが心配か、説明しにくい点は何か。
- 希望:最初に確認したいこと、今は決めたくないこと。
相手の発言を正確に覚えていない場合は、「このような趣旨だった」と書きます。事実として覚えている部分と、自分の受け止めを分けるためです。日時が曖昧なら「月曜の朝会の後、時刻は不明」のように、不明な範囲も残せます。
架空の記入例
出来事:月曜の朝会後、会議室で、上司から資料のやり直しを指示された。「こんなこともできないのか」という趣旨の言葉があった。正確な語順は覚えていない。同僚2人がいたが、聞いていたかは未確認。
ためらい:担当者に話すと、すぐ上司に連絡されるのか分からない。仕事上の注意と、自分への言い方を分けて説明できるか不安。
希望:まず相談内容を誰が見るかを聞きたい。その後、出来事を一つずつ説明したい。
この例では、同席者を「証人」と決めつけず、確認できていないことをそのまま残しています。「怖かった」「次の出勤が気になる」といった気持ちは、別の一文に加えて構いません。感情を消すのではなく、出来事と読み分けられる形にします。
最初は相談の進め方だけを質問してもよい
「経緯を話す前に、担当者と情報の共有範囲を教えてください」「本人に確認せず関係者への聞き取りが始まることはありますか」のように、手続きを質問する準備もできます。希望を書いたから必ずその通りになるとは限らないため、窓口の説明を確認しながら進めます。
厚生労働省の相談Q&Aは、社内で相談しにくい場合や窓口が分からない場合の社外相談先も案内しています。例えば総合労働相談コーナーなどです。相談先と一般的な流れを公的案内で確認することができます。記録の完成を待つ必要はありません。
きろくねで、話す前の一場面を残す
きろくねでは、ケースにメモ・録音・写真を記録し、あとから時系列で見返せます。まず今回の一場面をメモにして、末尾に「未確認」「相談で聞きたいこと」を書き添える使い方ができます。三つの欄はこの記事の書き方の提案であり、アプリの専用フォームではありません。
数日後に思い出したことは、いつ思い出して追記したかも分かるように残しておくと、相談前に整理し直せます。すでにある短いメモを出発点にして構いません。あとから出来事をメモする際の注意点も参考にしてください。
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。
よくある質問
- 相談していないと、パワハラではないのでしょうか?
- 相談したかどうかだけで判断はできません。この記事の調査も、経験したと回答した人のその後の行動を尋ねています。個別の判断を自分だけで確定させず、具体的な出来事を相談先に伝えてください。
- 相談するか決めていなくても記録してよいですか?
- はい。出来事と、相談をためらう理由や聞きたいことを分けて残せます。すべてを思い出そうとせず、今分かっている範囲と不明な部分を記してください。
- 録音がなければ相談できませんか?
- 録音を準備することを相談の前提にする必要はありません。まず今ある情報で相談先に連絡し、説明や資料について確認してください。無理に記録を増やすために相談を遅らせないようにします。
出典・参考
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。