取引先の担当者から強い言葉を向けられても、会社員のように社内の相談窓口や人事がすぐに思い浮かぶとは限りません。次の仕事が来なくなるかもしれないと考えて、黙ってしまうこともあります。

この記事の要点

  • フリーランス・事業者間取引適正化等法(2024年11月1日施行)で、一定の発注事業者にはハラスメント対策の体制整備が義務付けられています。
  • 相談先は取引先の窓口のほか、弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」や都道府県労働局があります。
  • 契約・依頼の変更・支払い・言われた言葉を、日付と原文のまま取引先ごとに残すと、経緯を説明しやすくなります。
  • ハラスメントに当たるかどうかの判断は、原則として相談先や専門家が個別の事情をもとに行います。
目次(8項目)
  1. 結論:相談窓口はあり、記録は取引先ごとに原文で残す
  2. 雇用ではないので、相談先と根拠が変わる
  3. フリーランスのハラスメント相談窓口の選び方
  4. 残しておきたいもの
  5. 取引先ごとに分けて、一つの流れにする
  6. しないでおきたいこと
  7. きろくねで残すなら
  8. よくある質問

この記事では、個人で仕事を請けるフリーランスが、取引先からハラスメントを受けたと感じたときの相談先と、相談の前に残しておきたい記録を整理します。

結論:相談窓口はあり、記録は取引先ごとに原文で残す

2024年11月1日に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(正式名称は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、フリーランスに業務を委託する発注事業者のうち、一定の条件に当てはまる事業者に、ハラスメント対策のための体制整備が義務付けられました。フリーランスがハラスメントについて相談したことなどを理由に、不利益な取扱いをしてはならないことも定められています。

相談先は一つではありません。取引先に相談窓口があればそこへ。外部では、弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」や、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)があります。どこに相談するにしても、いつ、誰から、どんな依頼や言葉があったかを日付順に説明できると、話を進めやすくなります。

受けた言動がハラスメントに当たるかどうかは、原則として相談先や専門家が個別の事情をもとに判断します。自分で結論を出してから相談する必要はありません。

雇用ではないので、相談先と根拠が変わる

会社員なら、勤め先が講じるハラスメント対策が前提になります。業務委託で働くフリーランスの場合は、発注事業者との取引の関係として、この法律が関わってきます。

  • 対象になるフリーランス:従業員を使用しない個人や、代表者一人だけで従業員のいない法人など。
  • 体制整備の義務を負う発注事業者:従業員を使用している、または役員が二人以上いるなど、法律上の条件に当てはまる事業者。発注事業者の条件によって、フリーランスに対する義務の内容が変わります。
  • 対象になる言動:性的な言動、妊娠・出産等に関する言動、取引上の優越的な関係を背景とした言動で、フリーランスの就業環境を害するもの(法律の条文の第14条)。

厚生労働省は、この法律にもとづく都道府県労働局の指導では、ハラスメント対策の体制整備義務の違反に関するものが最も多いと紹介しています(就業環境整備のポイント)。取引先に窓口が見当たらないときは、外部の窓口を使う方法があります。

また、形式は業務委託でも、働き方の実態によっては労働基準法上の「労働者」に当たる可能性があるとされています。その場合は労働基準関係の法令が適用されます。迷うときは、そのことも含めて相談できます。

フリーランスのハラスメント相談窓口の選び方

相談先

向いていること

取引先の相談窓口

体制整備の義務を負う発注事業者には、相談に応じて適切に対応するための体制の整備が求められています。契約書や案内に窓口が書かれていないか確かめます。

フリーランス・トラブル110番

厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営する窓口です。契約・報酬・ハラスメントなど仕事上のトラブルを、弁護士に無料で相談できます。電話・メールのほか、ビデオ通話での相談もあり、匿名でも相談できるとされています。

都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)

この法律のうち、ハラスメント対策など就業環境の整備に関する部分の窓口です。

公正取引委員会・中小企業庁

取引条件の明示や報酬の支払いなど、取引の適正化に関する部分の窓口です。

法律に違反すると思われる行為があるときは、フリーランスから公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省に申し出ることができます。どこに何を伝えればよいか迷う段階なら、フリーランス・トラブル110番で申し出についての助言を受けることもできます。

残しておきたいもの

フリーランスの仕事は、依頼・変更・納品・支払いがメールやチャットで流れていきます。つらかった言葉だけを切り出すより、仕事の経緯と一緒に並べておく方が、相談先に全体が伝わります。

  • 契約と依頼の内容:契約書、発注書、最初の依頼文。業務の範囲・納期・報酬が分かるもの。
  • 依頼の変更:いつ、誰から、何がどう変わったか。口頭で変わったときは、その日のうちに日時と内容をメモします。
  • 支払い:請求日、支払予定日、実際の入金日。遅れや減額があれば、そのときの説明。
  • 言われた言葉:要約せず、覚えている言葉のまま。正確でない部分は「このような趣旨」と添えます。
  • やり取りの原文:メール、Slack、LINE、Instagram の DM など。前後の流れが分かる形で、元のデータを消さずに残します。
  • 自分への影響:作業が止まった、ほかの仕事を断った、眠れなかったなど。

架空の例です。「10月3日 14時、ビデオ会議。先方担当のAさん。3回目の修正依頼の場で『こんなレベルなら誰でもできる。次から報酬は下げる』という趣旨の発言。同席はBさん。会議後、修正範囲を確認するメールを送ったが返信なし」。仕事の事実と言われた言葉を、同じ一件に入れておきます。

メールやチャットの残し方はメール・チャットを残す方法、Slack の DM はSlackのDMを相談前に残すときの扱い方にまとめています。

取引先ごとに分けて、一つの流れにする

複数の取引先と仕事をしていると、別の相手とのやり取りが一つのメモに混ざりがちです。取引先ごとに分けておくと、相談するときに必要な範囲だけを取り出せます。

報酬の未払いや契約の打ち切りが同じ時期に起きているなら、無理に切り離さず、同じ時系列に並べて構いません。どちらが先だったかが、あとで大事になることもあります。

取引先から預かった資料や、ほかのクライアントの情報が写り込んでいるものは、秘密保持の約束に触れることがあります。相談先に見せる前に、どこまで出してよいかを確かめます。

しないでおきたいこと

  • SNSに書き込まない:取引先の名前や言葉を公開すると、別のトラブルにつながることがあります。
  • 録音や共有の前に確かめる:録音するときは、契約の内容や地域のルールを確かめ、相手に伝えるかどうかも考えます。録音の扱いは録音の残し方と注意点へ。
  • 元のデータを編集しない:言葉を書き換えたり、一部だけを切り取った画像だけを残したりしない。

相談の場で、全部の記録を最初から見せる必要はありません。相談で伝わる1ページまとめの形で、困っていることと代表的な出来事を一枚にしておくと、話を始めやすくなります。

きろくねで残すなら

きろくねは、メモ・録音・写真を一つのケースに時系列で並べられる iPhone アプリです。LINE・Slack・Instagram の書き出しファイルを取り込むと、原文を切り取らずに保ったまま、残したい発言を選んで記録にできます。記録は端末の中に保存され、Face ID やパスコードでロックできます。

無料で使えるケースは一つで、記録の数に上限はありません。取引先ごとにケースを分けたいときは、ケースの追加(きろくねプラスの機能)が必要です。相談先に渡す PDF の書き出しも、きろくねプラスの機能です。

iPhone版きろくねで、今日の一件を残す

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。

よくある質問

フリーランスがハラスメントを相談できる窓口はどこですか?

取引先に相談窓口があればそこへ。外部では、弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」(厚生労働省の委託事業)があります。フリーランス・事業者間取引適正化等法のうち、ハラスメント対策など就業環境の整備に関する部分は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)、取引条件や支払いに関する部分は公正取引委員会・中小企業庁が窓口です。

口頭で依頼内容を変えられたときは、どう残せばよいですか?

その日のうちに、日時・相手・変わった内容をメモします。できれば「本日いただいた修正は、〇〇という理解でよろしいでしょうか」と文字で確認を送り、送った日時と返信の有無も残します。返信がないことを、合意したことと同じには扱わないでおきます。

報酬の未払いとハラスメントを、一緒に整理してもよいですか?

はい。同じ時期に起きているなら、同じ時系列に並べて構いません。フリーランス・トラブル110番では、あいまいな契約、報酬の未払い、ハラスメントといったトラブルを相談できると案内されています。

業務委託でも「労働者」として扱われることはありますか?

厚生労働省は、形式が業務委託でも、働き方の実態によっては労働基準法上の「労働者」に当たる可能性があるとしています。契約の名称ではなく実態をもとに総合的に判断されるため、迷うときは相談先に確認してください。

出典・参考

閉じたノートパソコンと、クリップで留めた請求書の束、スマートフォン

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。