最初の一度は、階段で転んだことになりました。翌朝、腫れた頬を見た本人が泣いて謝って、私も一緒に泣いて、それで終わった話でした。二度目のとき、私はもう、誰にどう説明すればいいのか分からなくなっていました。
この記事の要点
- 身の危険を感じるときは110番、緊急でないときは警察相談専用電話#9110を利用できます
- 保護命令の申立ての前には、配偶者暴力相談支援センターまたは警察への相談が案内されています
- 接近禁止命令の期間は1年、退去等命令は原則2か月とされています
- 端末を相手が見る可能性があるときは、記録より先に安全の確保を優先します
目次(8項目)
この記事に出てくる人物と家庭は実在しません。報道や公表されている公的な案内に共通して見られる経過をもとに、特定の個人が分からない形で再構成した架空の事例です。
いま身の危険を感じているときは、この記事を読むより先に110番へ通報してください。緊急ではないけれど不安があるときは、警察相談専用電話「#9110」があります。
説明できないことのほうが、こわかった
痛みそのものより苦しかったのは、それを人に伝えられないことでした。いつ、どこで、何をされたのか。順番に話そうとすると、途中で分からなくなりました。何度も似たことが起きているうちに、記憶の中でそれらが一つに溶けてしまっていたからです。
母に電話をしたことがあります。うまく言えず、「最近ちょっと疲れてて」で終わりました。病院にも行きませんでした。行けば、聞かれると思ったからです。
誰も信じてくれないだろう、ではありませんでした。自分でも、順番に話せなかったのです。
「相談した記録はありますか」
市の窓口にたどりついたのは、二年目の冬でした。話を聞いてくれた職員の方が、途中で穏やかにこう尋ねました。これまでに、どこかに相談したことはありますか。
ありませんでした。誰にも言っていませんでした。それが恥ずかしいことのように感じて、うつむいたのを覚えています。
その方は責めませんでした。ただ、「これから相談したことは残ります」と言いました。今日この日が、その一回目になります、と。
保護命令という仕組み
裁判所の案内によると、保護命令とは、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの身体に対する暴力等を防ぐため、被害者の申立てにより、裁判所が相手方に対して、つきまといをしてはならないことなどを命ずる制度とされています。申立ては、相手方の住所、申立人の住所または居所、暴力等が行われた地のいずれかを管轄する地方裁判所またはその支部に行うとされています。
命令は6種類あります。申立人への接近禁止命令、電話等禁止命令、子への接近禁止命令、子への電話等禁止命令、親族等への接近禁止命令、そして退去等命令です。接近禁止命令の期間は1年、退去等命令は原則2か月(一定の場合は6か月)とされています。
ここで、あの窓口での質問につながります。裁判所の案内では、申立ての前に、暴力を受けた状況など申立てを基礎づける事情について、配偶者暴力相談支援センターまたは警察署にあらかじめ相談しておくよう案内されています。事前の相談をしていない場合には、公証役場で宣誓供述書を作成してもらう必要があるとされています。
つまり、相談したという事実そのものが、後の手続きに関わってきます。一回目の相談は、早いほうがよい、ということでもあります。
法律は、少しずつ変わっている
配偶者暴力防止法は近年たびたび改正されています。令和6年4月に施行された改正では、保護命令の対象が身体に対する暴力だけでなく、生命・身体・自由・名誉・財産に対する脅迫などにも広がり、接近禁止命令の期間が6か月から1年に延びたとされています。保護命令に違反した場合の罰則も重くなりました。令和7年12月には、接近禁止命令で禁止される行為がさらに追加されています。
ただし、自分の状況が保護命令の対象になるかどうかを、自分で判断する必要はありません。制度の当てはめは、相談窓口や裁判所、弁護士の役割です。
記録より先に、安全がくる
その端末を、相手が見る可能性はありませんか。共有のタブレット、ロックのかかっていないスマートフォン、共通のクラウドアカウント。記録を残すこと自体が危険につながる場面があります。不安があるときは、無理に書かず、外部の窓口に直接連絡してください。
逃げる準備をしているときも同じです。健康保険証、通帳、印鑑、鍵、薬、子どもの物といった持ち出しの相談は、配偶者暴力相談支援センターでできます。一時的に身を寄せる場所についても、窓口で相談できます。
安全を確かめたうえで残せること
書ける状況にあるなら、次のようなものが手がかりになります。ただし、これが証拠になるかどうかを、この記事で断ることはできません。扱いは窓口や専門家に確認してください。

- 受診の記録(診断書、受診した日と医療機関。けがの原因を医師に伝えられるなら伝える)
- 相談した日と窓口(配偶者暴力相談支援センター、警察、市区町村の窓口。誰と話したかも)
- 出来事の日付と、起きたこと(一件ずつ短く。覚えている言葉はそのまま、不明な部分は「不明」と分ける)
- 手元に届いたもの(メッセージ、着信履歴。加工せずそのまま残す)
受診は、体のためにまず必要なことです。そのうえで、受診した日付が残ることには別の意味も生まれます。きろくねには端末のロックや、アプリを切り替えたときに中身を隠す設定があります。ただし、隠しアプリにはならず、安全を保証するものでもありません。同じ端末を家族が使うときの備えもあわせて確認してください。
今すぐ危険を感じるとき
身の危険があるときは110番へ。緊急でないときは警察相談専用電話「#9110」があります。
どこに相談すればよいか分からないときは、DV相談ナビ(#8008)に電話すると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。DV相談+(プラス)(0120-279-889)では、24時間の電話相談のほか、チャットでの相談も受け付けているとされています。
離婚や親権、費用の見通しについては、法テラスで無料法律相談や弁護士費用の立替を利用できる場合があります。
順番に話せなくても、相談は始められます。うまく説明できないという状態そのものを、そのまま伝えて構いません。きろくねは記録を助ける道具で、診断や認定、法的な判断は行いません。
よくある質問
- 保護命令を申し立てるには、先に相談が必要なのですか?
裁判所の案内では、申立ての前に、暴力を受けた状況など申立てを基礎づける事情について、配偶者暴力相談支援センターまたは警察署にあらかじめ相談しておくよう案内されています。事前の相談をしていない場合には、公証役場で宣誓供述書を作成してもらう必要があるとされています。詳しくは申立先の裁判所や相談窓口にご確認ください。
- 保護命令はどこに申し立てるのですか?
相手方の住所、申立人の住所または居所、身体に対する暴力等が行われた地のいずれかを管轄する地方裁判所またはその支部に申し立てるとされています。手続きの詳細は裁判所の案内をご確認ください。
- けがの写真や診断書は残しておくべきですか?
受診はまず体のために必要なことで、その結果として日付が残ります。ただし、それが証拠としてどう扱われるかは個別の判断によるため、この記事で断ることはできません。安全に残せる状況かどうかを先に確かめ、扱いは相談窓口や弁護士に確認してください。
- 記録をつけていることが相手に知られそうで不安です。
その不安があるときは、記録より安全の確保が先です。共有端末や共通のクラウドアカウントを使わない、書くこと自体を控える、外部の窓口に直接連絡するといった方法があります。配偶者暴力相談支援センターでは、安全に相談を続ける方法についても相談できます。
出典・参考
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。