殴られたことは、一度もありませんでした。だから長いあいだ、これは何かの名前がつくような話ではないと思っていました。うちが少し厳しいだけ。私のやりくりが下手なだけ。そう考えるほうが、まだ楽だった

この記事の要点

  • 生活費を渡さない、働くことを制限するといった行為は、経済的な暴力として挙げられています
  • 暴力の名前を自分で決めなくても、渡された金額と日付を残すことはできます
  • 端末を家族が見る可能性があるときは、記録より先に安全の確保を優先します
  • 配偶者暴力相談支援センターやDV相談ナビ(#8008)には、名前をつける前の段階でも相談できます
目次(7項目)
  1. レシートを見せる暮らし
  2. 働きに出る話が、そのたびに消えた
  3. これに名前があると知った日
  4. 安全のほうが先にくる
  5. 渡された金額と、日付だけ
  6. 名前をつける前でも、相談できる
  7. よくある質問
生活費を渡されない状況で、安全に記録と相談を考えるイメージ
安全を優先しながら、相談で伝える出来事を整理するイメージです。

のだと思います。

この記事に出てくる人物と家庭は実在しません。報道や公表されている相談事例に共通して見られる経過をもとに、特定の個人が分からない形で再構成した架空の事例です。

レシートを見せる暮らし

結婚してしばらくすると、家計の管理はすべて相手に移りました。渡されるのは、週ごとの現金です。金額は決まっておらず、その週の機嫌によって変わりました。足りなくなって追加を頼むと、まずレシートを全部出すように言われました。

牛乳を買った理由を説明したことがあります。子どもの上履きが小さくなったと伝えたときは、来月にしろと言われて、その月は言えませんでした。

「誰の金で食べてると思ってる」

その一言が出ると、話は終わりました。反論すると長くなることを知っていたので、私はいつからか、最初から頼まなくなりました。

働きに出る話が、そのたびに消えた

パートに出たいと何度か話しました。そのたびに、子どもがかわいそうだ、家のことが回らない、稼ぎたいなら計算してみろ、と返されました。数字を並べられると、私はいつも黙るしかありませんでした。

面接まで進んだことも一度だけあります。前日の夜に長い話し合いになり、翌朝は起き上がれませんでした。断りの電話を入れたのは自分です。だから、これは自分で決めたことなのだと、しばらく思っていました。

気づいたときには、自分名義の口座に、ほとんど残高がありませんでした。

これに名前があると知った日

子どもの学校の掲示板に貼られた相談窓口のちらしを、たまたま読みました。そこに、生活費を渡さないこと、働きに出るのを妨げることが並んでいました。

内閣府男女共同参画局の説明では、配偶者からの暴力には、身体的なもののほかに、精神的なもの、性的なもの、そして経済的なものが挙げられています。生活費を渡さない、外で働くことを制限する、といった行為がその例として示されています。

また、配偶者暴力防止法は近年たびたび改正されています。令和6年4月に施行された改正では、保護命令の対象が身体に対する暴力だけでなく、生命・身体・自由・名誉・財産への脅迫などにも広がり、接近禁止命令の期間が延びたとされています。令和7年12月には、接近禁止命令で禁止される行為がさらに追加されました。

それでも、自分の状況にどの名前が当てはまるかを、自分で決める必要はありません。制度の当てはめは、相談窓口や専門家の役割です。こちらは、起きたことを残しておく側に立てます。

安全のほうが先にくる

記録の話をする前に、確かめておきたいことがあります。その端末を、相手が見る可能性はありませんか。

共有のタブレット、ロックのかかっていないスマートフォン、共通のクラウドアカウント。家庭内のことを記録するときは、記録そのものが危険につながることがあります。書くこと自体に不安があるときは、無理に残さず、外部の窓口に先に連絡してください。

いま身の危険を感じているときは、迷わず110番へ。緊急でなくても、警察相談専用電話「#9110」があります。

渡された金額と、日付だけ

安全を確かめたうえで残すなら、長い文章は要りません。次の三つだけで十分に経過が見えてきます。

  • 日付と、渡された金額(「11月4日 8,000円」。渡されなかった日は「なし」と書く)
  • そのときのやりとり(覚えている言葉をそのまま。思い出せない部分は「正確な文言は不明」と分ける)
  • 断られたこと・妨げられたこと(受診、就労、子どもの費用など)

金額と日付が並ぶと、月ごとの差や、頼めなくなっていった時期が、自分の主観ではなく順番として見えてきます。通帳や振込の記録、レシート、勤務先とのやりとりといった手元の資料は、加工せずそのまま保管しておきます。

きろくねには端末のロックや、アプリを切り替えたときに中身を隠す設定があります。ただし、隠しアプリにはならず、安全を保証するものでもありません。同じ端末を家族が使うときの備えもあわせて確認してください。

名前をつける前でも、相談できる

どこに相談すればよいか分からないときは、DV相談ナビ(#8008)に電話すると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。DV相談+(プラス)(0120-279-889)では、24時間の電話相談のほか、チャットでの相談も受け付けているとされています。

離婚や生活費の請求といった法的な見通しを知りたいときは、法テラスで無料法律相談や弁護士費用の立替を利用できる場合があります。

「これがDVなのか分からない」という状態のまま相談して構いません。名前を決めるのは、相談したあとでも遅くありません。きろくねは記録を助ける道具で、診断や認定、法的な判断は行いません。

よくある質問

生活費を渡してもらえないことも、暴力にあたるのでしょうか?

内閣府男女共同参画局の説明では、生活費を渡さない、外で働くことを制限するといった行為が、経済的な暴力の例として挙げられています。ただし、個別の状況がどう扱われるかは相談窓口や専門家の判断によります。名前が定まらない段階でも相談できます。

身体的な暴力がなくても相談してよいですか?

相談できます。配偶者暴力相談支援センターやDV相談ナビ(#8008)は、身体的な暴力がない場合の相談も受け付けています。何が起きているかを説明しきれない段階でも構いません。

記録を相手に見つけられるのが怖いです。

その不安があるときは、記録より安全の確保が先です。共有端末や共通のクラウドアカウントを使わない、書くこと自体を控える、外部の窓口に直接連絡するといった方法があります。窓口では、安全に相談を続ける方法についても相談できます。

何年も前のことも記録できますか?

思い出せる範囲で書けます。あいまいな部分は推測で埋めず、「時期は不明」「おおよそ」と区別して書いておくほうが、後から見返しやすくなります。通帳や振込の記録が手がかりになる場合もあります。

出典・参考

「誰の金で食べてると思ってる」|生活費を渡されない日々を記録に残すまでのイメージ

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。