パワハラが原因で退職したとき、雇用保険(いわゆる失業保険)で「会社都合」に近い扱いになるかどうかは、会社や本人が決めるのではなく、ハローワークが離職理由を判定して決めます。ハローワークが示す「特定受給資格者」の範囲には、上司・同僚等からの嫌がらせなどを受けて離職した人が含まれますが、パワハラで辞めれば必ず当てはまるわけではありません。この記事では、ハローワークと厚生労働省の資料で確かめた判定の流れと、判定のために在職中から残しておける記録を整理します。個別の判断はハローワークに確認してください。
この記事の要点
- 雇用保険の離職理由は、事業主と離職者それぞれの主張と、それを確認できる資料をもとに、ハローワークが判定します。
- ハローワークの特定受給資格者の範囲には、上司・同僚等からの故意の排斥や著しい冷遇・嫌がらせを受けて離職した人が含まれますが、パワハラで辞めれば必ず当てはまるわけではありません。
- 判断基準では、繰り返し受けた場合が該当するとされ、管理者が職務上の失態に注意・叱責することは、それだけでは該当しないとされています。
- 離職票-2には、事業主が選んだ離職理由に異議があるかを示す欄があり、異議があればハローワークに相談できます。
- 出来事のメモ、配置転換や担当変更の通知、社内に相談した記録などを、在職中から手元に分けて残せます。
目次(8項目)
結論:判定するのはハローワーク。異議があれば伝えられる
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレット「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」では、離職理由の判定は、事業主が離職証明書に書いた理由と、離職者が離職票-2に書いた理由の両方を把握し、それぞれの主張を確認できる資料で事実を確かめたうえで、最終的にハローワークで慎重に行うとされています。事業主や離職者の主張だけで判定するものではないため、離職理由を確認できる資料の持参が求められています。必要に応じて、ハローワークから事情を聞かれたり、資料の提示を求められたりすることもあります。
「会社都合」「自己都合」と、雇用保険の区分
「会社都合」「自己都合」は日常の呼び方です。雇用保険では、離職理由によって次のような区分があり、受給の条件や給付日数が変わることがあります。
区分 | パワハラ・退職と関係しうる例 | 主な違い |
|---|---|---|
特定受給資格者 | 上司・同僚等からの故意の排斥や著しい冷遇・嫌がらせを受けての離職。退職を勧められての離職 | 離職前1年間に被保険者期間が通算6か月以上あれば受給資格を得られる。給付日数が手厚くなる場合がある |
特定理由離職者(正当な理由のある自己都合) | 心身の障害や病気などで、業務を続けることが不可能・困難になっての離職 | 受給資格の条件は上と同じ。給付日数は通常の離職者と同じ |
上の範囲に当たらない離職 | 自己の都合による離職など | 原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要。離職理由によっては、一定期間支給されない給付制限がある |
給付日数は、離職理由のほか、年齢や雇用保険に加入していた期間によって決まります。加入期間が短い場合などは、特定受給資格者に当たっても、通常の離職者と給付日数が変わらないこともあるとされています。給付制限の期間は、過去の離職の状況などによって変わるため、ハローワークで確認してください。
パワハラに関係する判断基準
判断基準のリーフレット(2024年10月版)では、事業主や同じ事業主に雇われている労働者から、就業環境が著しく害されるような言動を受けて離職した場合について、次のように説明されています。
- 上司・同僚等の「故意」の排斥、著しい冷遇や嫌がらせを繰り返し受けて離職した場合が該当する。たとえば、特定の個人を対象とした配置転換や給与体系などの変更が行われた場合。
- 管理者が、部下の職務上の失態などに注意・叱責することは通常起こり得るため、そのことだけでは該当しない。
- 持参する資料の例は、配置転換の辞令の写し、就業規則、労働契約書、賃金台帳など。
同じリーフレットには、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産等に関するハラスメントについて、事業主が事実を把握しながら必要な措置を講じなかったために離職した場合の基準も載っています。ハローワークの範囲には、退職を勧められての離職や、離職前6か月間に一定の時間を超える時間外労働があった離職も含まれます。自分の状況がどれに当たるかを自分で決めつけず、起きたことを並べてハローワークに相談します。
退職の前後に見ておきたい書類の欄
- 離職証明書:会社がハローワークに提出する書類で、離職前に本人が氏名を記載することになっています。ハローワークは、そのときに離職理由などの記載内容も確認するよう案内しています。
- 離職票-2:離職理由欄には、事業主が記入する欄と離職者が記入する欄があり、選択肢には「事業主又は他の労働者から就業環境が著しく害されるような言動(故意の排斥、嫌がらせ等)を受けたと労働者が判断したため」もあります。離職者用の具体的事情記載欄と、事業主が選んだ離職理由に異議が「有り・無し」を示す欄もあります。
- 異議があるとき:ハローワークは、実際は退職勧奨なのに自己都合退職とされている場合などは相談するよう案内し、事実関係を調査したうえで離職理由を判定するとしています。
判断基準のリーフレットには、離職票の離職理由について虚偽の申告をすることも不正行為になると書かれています。書くのは、自分が確かめられる事実です。
判定のために、在職中から残しておける記録
ハローワークは離職理由を確認できる資料を求めています。どの資料がどう扱われるかは事情によって異なりますが、次のものを、会社のルールの範囲で手元に分けておくと、相談の場で説明しやすくなります。
- 出来事のメモ:日時、場所、相手、言われたこと・されたこと、見ていた人。繰り返しがあれば日付ごとに分けます。
- 配置・担当・給与の変化:配置転換や担当変更の通知、席の移動、給与の変更が分かる書類。いつ、誰から伝えられたか。
- 退職を勧められた経過:面談の日時、同席者、言われたこと、自分が答えたこと(退職を迫られた日々を記録に残すまで)。
- 社内に相談した記録:相談した日、相手、伝えた内容、返答(社内にパワハラを相談した後の記録)。
- 体調と受診:受診した日や休んだ日。心身の不調による離職の判断基準では、持参する資料の例に医師の診断書などが挙げられています。
業務資料や同僚の個人情報を広く持ち出すことは避けます(退職前に職場のやり取りを整理する)。辞めるかどうかを迷っている段階の記録の残し方は、パワハラで退職する人は何人?でも触れています。
迷ったときの相談先
離職理由や受給の条件はハローワークで確認できます。退職を迫られている状況やパワハラそのものについては、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などにある総合労働相談コーナーで、予約不要・無料で相談できます。眠れない、朝に体が動かないといった状態が続くときは、手続より受診や休養を先にしてください。
きろくねで残すなら
きろくねでは、出来事のメモ、録音、写真を一つのケースに時系列で並べられます。メモは「いつのこと」で出来事の日時を選べるので、配置換えを告げられた日、社内に相談した日、受診した日を、あとから同じ流れの中に置けます。退職を決めていない段階でも、起きたことと迷っていることを分けて残せます。
記録は端末の中に保存され、アプリ独自のクラウド同期はありません。iPhoneのバックアップ(iCloud・パソコン)を有効にしていれば、記録もバックアップに含まれます。
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。
よくある質問
- パワハラで退職すれば、失業保険は会社都合になりますか?
必ずそうなるとは言えません。ハローワークは、事業主と離職者それぞれの主張と、それを確認できる資料で事実を確かめたうえで離職理由を判定します。判断基準では、上司・同僚等の故意の排斥や著しい冷遇・嫌がらせを繰り返し受けた場合が該当するとされる一方、管理者が職務上の失態に注意・叱責することは、それだけでは該当しないとされています。
- 離職票の離職理由が自己都合になっていたら、どうすればいいですか?
離職票-2には、事業主が選んだ離職理由に異議があるかを離職者が示す欄と、具体的な事情を書く欄があります。異議がある場合はハローワークに相談すると、事実関係を調査したうえで離職理由を判定すると案内されています。事実と違う内容を申告することは不正行為になるため、自分が確かめられる事実を書きます。
- 体調を崩して辞めた場合はどうなりますか?
心身の障害や病気などで業務を続けることが不可能・困難になって離職した場合は、特定理由離職者(正当な理由のある自己都合)の範囲に含まれる項目があり、持参する資料の例には医師の診断書などが挙げられています。ただし、病気やけがのためにすぐには就職できない状態のときは、基本手当を受けられないとされています。受給期間の延長などの扱いは、ハローワークで確認してください。
- 資料が少なくても、ハローワークに相談できますか?
相談できます。ハローワークは主張だけで判定しないとして、離職理由を確認できる資料の持参を求めています。手元にあるものと、ないものを分けて伝え、何が確認に使えるかを窓口で尋ねてください。在職中であれば、出来事のメモや社内に相談した記録を今から残しておけます。
出典・参考
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(2026-10-06 確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク リーフレット「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」(2024年10月版、兵庫労働局掲載)(2026-10-06 確認)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」(受給要件・離職理由の判断手続きの流れ)(2026-10-06 確認)
- ハローワークインターネットサービス「雇用保険の具体的な手続き」(2026-10-06 確認)
- ハローワークインターネットサービス「記入例:雇用保険被保険者離職票-2」(2026-10-06 確認)
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(2026-10-06 確認)
きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。