「パワハラ防止法」と呼ばれているのは、改正された労働施策総合推進法のことです。パワハラを防ぐための措置は、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から事業主の義務になりました(中小企業はそれまで努力義務)。2026年10月1日からは、同じ法律の改正でカスタマーハラスメント対策が、男女雇用機会均等法の改正で就活生などへのセクハラ対策が、事業主の義務に加わりました。この記事では、e-Gov法令検索の条文と厚生労働省の資料で確かめた流れと、会社に求められていること、働く側が知っておきたい点と記録を整理します。

この記事の要点

  • 「パワハラ防止法」は改正労働施策総合推進法の通称で、パワハラ防止措置は大企業で2020年6月1日、中小企業で2022年4月1日から事業主の義務になりました。
  • 2026年10月1日からは、カスハラ対策と、就活生などの求職者等へのセクハラ対策も事業主の義務になり、パワハラ防止措置の条文は第31条に移りました。
  • 会社には、方針の周知、相談窓口の設置、事実関係の確認、配慮と再発防止、プライバシーの保護など10の措置が求められています。
  • 相談したことや事実確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、法律で禁じられています。
  • 会社の措置と並べて、窓口の案内を見た日、面談の内容、提案された配慮、その後の変化を残しておくと、経過を見返しやすくなります。
目次(8項目)
  1. 結論:2020年に大企業、2022年に中小企業、2026年に対象が広がった
  2. 法律が事業主に義務づけていること
  3. 違反した会社はどうなる?罰則の考え方
  4. 働く側が知っておきたい4つのこと
  5. 会社の措置と対応させて、記録を残す
  6. 2026年10月から加わったこと
  7. きろくねで残すなら
  8. よくある質問

結論:2020年に大企業、2022年に中小企業、2026年に対象が広がった

時期

変わったこと

対象

2019年6月5日

改正法の公布。パワハラ防止のための雇用管理上の措置義務を新設

―

2020年6月1日

パワハラ防止措置の義務化。相談したことなどを理由とする不利益な取扱いの禁止など、セクハラ等の防止対策の強化も同じ日に施行

大企業(中小企業は努力義務)。セクハラ等の強化は規模を問わない

2022年4月1日

中小企業もパワハラ防止措置が義務に

中小企業

2026年10月1日

カスハラ対策と、求職者等へのセクハラ対策が義務に。パワハラ防止措置の条文は第31条に移った

すべての事業主

「パワハラ防止法」は通称で、正式な名前は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。2026年10月の改正法(令和7年法律第63号)は2025年6月11日に公布され、施行日は政令で2026年10月1日と定められました。パワハラ防止措置の条文は、改正前は第30条の2でしたが、2026年10月14日にe-Gov法令検索で確かめた条文では第31条になっています。

法律が事業主に義務づけていること

第31条は、職場で行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じて適切に対応するための体制の整備その他の措置を講じることを事業主に求めています。この3つの要素の見方はパワハラと厳しい指導の違いは?で扱っています。

具体的な措置は、厚生労働省の指針とリーフレットで次の10項目に整理されています。

  • 方針の明確化と周知:①パワハラの内容と、行ってはならない方針を明確にして周知する ②行為者に厳正に対処する方針と対処の内容を就業規則などに定めて周知する
  • 相談体制:③相談窓口をあらかじめ定めて周知する ④窓口の担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする
  • 起きたあとの対応:⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する ⑥被害を受けた人への配慮の措置を適正に行う ⑦行為者への措置を適正に行う ⑧再発防止の措置を講じる(事実が確認できなかった場合も含む)
  • あわせて講じる措置:⑨相談者・行為者等のプライバシーを守る措置を講じて周知する ⑩相談したことなどを理由に不利益な取扱いをされない旨を定めて周知する

対象の「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員なども含まれます。派遣社員については、派遣元だけでなく派遣先にも措置の義務があるとされています。

違反した会社はどうなる?罰則の考え方

この法律が義務を課しているのは、事業主が講じる措置です。厚生労働大臣は事業主に助言・指導・勧告ができ、パワハラ防止措置や不利益な取扱いの禁止に違反している事業主が勧告に従わないときは、その旨を公表できると定められています(第42条)。また、これらの規定の施行に関して報告を求められた事業主が報告をしない、または虚偽の報告をしたときは、20万円以下の過料とされています(第45条・第51条)。

この法律の罰則の条文(第49条〜第51条)には、パワハラの言動そのものを対象にした規定はありません。行為者への処分は、会社が就業規則などにもとづいて行う懲戒などとして、上の措置⑦に含まれます。法テラスの「よくある相談」では、行為の内容によっては、損害賠償を求めることや、暴行罪・脅迫罪・名誉毀損罪などで告訴することが考えられるとされています。どれに当たるかは個別の事情によるため、専門家や相談窓口に確かめてください。

働く側が知っておきたい4つのこと

  1. 相談窓口と方針は、周知されているはず。就業規則、社内のポータル、研修資料などで、窓口の連絡先と方針を確かめられます。見つからないときは、人事に「ハラスメントの相談窓口はどこですか」と尋ねるところから始められます。
  2. 相談したことを理由とする不利益な取扱いは禁止されている。第31条第2項は、相談したことや、会社の事実確認に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。
  3. 当たるか微妙でも、相談してよい。厚生労働省のリーフレットは、パワハラに該当するか微妙なものも含めて広く相談に対応することを、事業主に求めています。
  4. 会社が対応しないときは、労働局へ。都道府県労働局長による助言・指導・勧告や、調停を求められます(第36条・第37条)。求めたことを理由とする不利益な取扱いも禁じられています。相談先の全体はパワハラはどこに相談する?、窓口の違いは労働基準監督署・総合労働相談コーナー・雇用環境・均等部の違いにあります。

会社の措置と対応させて、記録を残す

会社に求められている措置と並べて書いておくと、相談した後に「何が行われ、何がまだか」を見返しやすくなります。次の例は架空で、実在の会社・人物とは関係ありません。

会社に求められること

働く側が残せること

例(架空)

窓口と方針の周知

窓口の案内をどこで見たか、見た日、連絡先

10月2日(金)、社内ポータルの相談窓口のページを保存。窓口は人事部と外部委託の電話

事実関係の確認

聴き取りの日時、担当者、聞かれたこと、自分が伝えたこと

10月6日(火)15時〜16時、人事部の担当者2名と面談。8月からの出来事3件を説明

相談した人への配慮

提案された配慮と、実際に変わったこと

10月9日(金)、「当面、その上司とは会議で同席しない」と説明を受けた

再発防止

研修や周知があったか、その後の職場の様子

まだ分からない。次の面談で尋ねる

不利益な取扱いの禁止

相談した後の評価、担当、言動の変化

10月13日(火)時点で担当の変更なし

表は、会社の対応を採点するためのものではありません。相談した日・相手・説明された内容を残しておくと、窓口と話すときや、労働局に相談するときに経過を伝えやすくなります。面談のあとに残すことは社内に相談した後の記録、窓口があっても話しにくいときは受付前に確認したい5項目にまとめています。

2026年10月から加わったこと

2026年10月1日からは、パワハラに加えて、顧客や取引先などからのカスタマーハラスメントを防ぐ措置(第33条)と、就活生やインターン生などの求職者等へのセクハラを防ぐ措置(男女雇用機会均等法第13条)が事業主の義務になりました。カスハラについてはカスハラ対策の義務化はいつから?で詳しく扱っています。

また、2026年10月1日から適用されているパワハラの指針には、商品の買い取り強要など(事業主が労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為)に関連する言動も、3つの要素をすべて満たす場合にはパワハラに当たると書かれています。2020年に告示された当初の指針には、この記述はありませんでした。

きろくねで残すなら

きろくねでは、出来事のメモ、録音、写真を一つのケースに時系列で並べられます。メモは「いつのこと」で出来事の日時を選べ、「何があったか」と「そのときの気持ち」を分けて書けます。相談窓口の案内を見た日や面談の内容も、出来事と同じケースに並べておけます。アカウントを作らずに使え、無料でケースを一つ作れて、記録の数に上限はありません。

記録は端末の中に保存され、アプリ独自のクラウド同期はありません。iPhoneのバックアップ(iCloud・パソコン)を有効にしていれば、記録もバックアップに含まれます。

iPhone版きろくねで、相談の経過を日付順に残す

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。

よくある質問

パワハラ防止法の正式な名前は何ですか?

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)です。2019年の改正でパワハラ防止措置が加わったことから、「パワハラ防止法」と呼ばれています。

中小企業はいつから義務になりましたか?

2022年(令和4年)4月1日からです。2020年6月1日から2022年3月31日までは努力義務とされていました。

パワハラ防止法に罰則はありますか?

この法律が義務を課しているのは事業主の措置で、勧告に従わない場合の公表(第42条)や、報告をしない・虚偽の報告をした場合の20万円以下の過料(第51条)が定められています。罰則の条文に、パワハラの言動そのものを対象にした規定はありません。行為の内容によっては、別の法律による手続きが考えられることもあるため、個別の事情は専門家や相談窓口に確かめてください。

会社に相談窓口が見当たらないときはどうすればいいですか?

相談窓口を定めて周知することは、事業主の義務とされています。人事に窓口の場所を尋ねるほか、社外では総合労働相談コーナーや、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。窓口を探した日や尋ねた相手も、記録に残しておけます。

パートや派遣社員も対象ですか?

厚生労働省のリーフレットでは、対象の労働者には正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員なども含まれるとされています。派遣社員については、派遣元だけでなく派遣先にも措置の義務があり、相談したことなどを理由に派遣先が不利益な取扱いをしてはいけないとされています。

出典・参考

しおりを挟んだ厚い本と、卓上カレンダー

きろくねは記録を助ける道具です。診断・認定・法的な判断は行いません。危険やつらさが強いときは、公的な窓口や専門家への相談もご検討ください。